定年が3年延びる。それは喜ぶべきことなのか?

2027年から、私の勤めている会社では定年年齢が引き上げられることになった。

これまで62歳だった定年が、65歳まで延長される。

ただし、給料は63歳以降、これまでの7割程度になるという。

これは、果たして良いことなのだろうか。それとも、悪いことなのだろうか。

正規社員として65歳まで働けるようになることは、定年後に改めて仕事を探す必要がないという点では、メリットなのかもしれない。

また、まだまだお金を稼ぐ必要がある人にとっては、収入を得られる期間が延びることは、金銭面で大きな安心材料になるだろう。

一方で、定年を迎えたら仕事を辞め、自由な時間を過ごそうと考えていた人にとっては、必ずしも喜ばしい話ではないはずだ。

私の身近にも、まさにこのことで悩んでいる方がいる。

来年で定年退職だと思っていたところ、会社から定年延長の通知が届いたのだ。

その方を、ここではA先輩と呼ぶことにする。

A先輩は、ちょっとしたスキマ時間があれば、会社から配布された定年延長に関する資料を読みあさっている。

それだけ真剣に考えなければならない問題なのだろう。

まだ私自身にとっては20年以上先の話である。

しかし、A先輩の姿を見ていると、考えさせられることが多い。

定年が延びる。

言葉だけを聞けば、働ける期間が延びるのだから、良いことのようにも思える。

けれど、人生は一度きりだ。

失った時間を巻き戻すことはできない。

お金を得るために働く時間が増えるということは、その分、自分のために使える時間が減るということでもある。

もちろん、仕事そのものに生きがいを感じている人もいるだろう。

会社で働き続けることが、社会とのつながりや生活の張り合いになる人もいる。

だからこそ、定年延長が良いか悪いかは、一概には言えない。

大切なのは、「働けること」と「働きたいこと」は、必ずしも同じではないということなのかもしれない。

A先輩を悩ませている5つのこと

A先輩は、いったい何に悩んでいるのだろうか。

もちろん、本人に聞いてみなければ本当のところは分からない。

ここからは、あくまでも私の独断と偏見による想像である。

1.定年退職のつもりが、早期退職になってしまう

これまでは、62歳で会社を辞めれば、定年退職だった。

ところが、定年が65歳に延長されると、62歳で辞めることは、会社の制度上、早期退職などと扱われる可能性がある。

もちろん、呼び方が変わったからといって、本人の人生が変わるわけではない。

それでも、長年勤めてきた会社を、きちんと定年まで勤め上げて卒業したい。

そんな気持ちがあるのではないだろうか。

自分の中では、62歳がゴールだった。

それなのに、会社から「ゴールは65歳です」と告げられる。

これまで思い描いていた人生設計を、突然修正しなければならないのだから、戸惑うのも無理はない。

2.他で働くよりも、定年延長のほうが条件が良い?

もし62歳で退職した場合、その後の生活費を確保するために、再就職を考える人もいるだろう。

しかし、長年勤めてきた会社を辞めて、新しい職場を探すのは簡単なことではない。

仕事内容、勤務時間、人間関係、通勤距離、そして給料。

考えなければならないことは多い。

その点、定年延長であれば、慣れ親しんだ職場で働き続けられる。

給料が7割程度に下がるとしても、新しい仕事を探すより条件が良い可能性はある。

ただし、これは実際の待遇や仕事内容によって変わってくる。

他社への再就職であれば、勤務日数を減らしたり、これまでとは違う仕事を選んだりできるかもしれない。

単純に給料だけを比較しても、答えは出ないのだろう。

それでも、いざ辞めるとなると、

「今の会社に残ったほうが、経済的には得なのではないか?」

そんな考えが頭をよぎるのかもしれない。

3.やっと定年だと思っていたのに、モチベーションが上がらない

長年、会社で働いてきた。

仕事の責任を果たし、毎朝決まった時間に出勤し、家族や自分のために収入を得てきた。

そして、ようやく定年退職。

これからは、少しゆっくり過ごそう。

そんな未来を楽しみにしていた人もいるはずだ。

ところが、定年が延長される。

しかも、給料は下がる。

もちろん、会社に必要とされていることを喜ばしく感じる人もいるだろう。

一方で、「もう十分に働いた」という気持ちになる人がいても不思議ではない。

ゴールが見えていたからこそ、最後まで頑張れた。

それなのに、ゴールが3年先に延びてしまった。

これは、単に3年間長く働くという話ではない。

これまでの人生設計や、仕事に対する気持ちまで変えなければならない問題なのだと思う。

4.給料は7割。それでも週5日働き続けるのか?

給料が7割程度になる。

それでも、勤務日数や労働時間がこれまでと大きく変わらないのであれば、仕事に対する負担感は変わらないかもしれない。

いや、むしろ給料が下がったことで、働くことへの納得感が薄れてしまう可能性もある。

もちろん、給料が下がること自体が問題なのではない。

仕事内容や責任が変わるのであれば、それに応じた待遇になることも考えられる。

しかし、これまでと同じように週5日働き、同じような責任を担うのであれば、こう思うこともあるだろう。

「あと3年間、今までと同じように働く必要があるのだろうか?」

「給料が下がるのであれば、勤務日数も減らしてほしい」

収入だけではなく、働く時間と負担のバランス。

それもまた、定年延長を考えるうえで重要なポイントなのだと思う。

5.残された時間を、どう使うのか?

そして、最も大きな問題は、これなのかもしれない。

残された時間。

人生には限りがある。

もちろん、何歳まで生きられるかは誰にも分からない。

だからこそ、元気に動けるうちにやっておきたいことがある。

旅行に行きたい。

趣味に時間を使いたい。

家族と過ごしたい。

何も予定を入れず、のんびり過ごしたい。

これまで仕事を優先してきた人ほど、定年後の自由な時間に期待しているのではないだろうか。

しかし、仕事を辞めれば、今度はお金の問題が出てくる。

年金と貯蓄だけで生活していけるのだろうか。

医療費や生活費が増えたらどうするのか。

想定より長生きしたら、お金は足りるのだろうか。

働き続ければ、収入面では安心できるかもしれない。

しかし、その分だけ自由な時間は少なくなる。

反対に、仕事を辞めれば自由な時間は増えるが、経済的な不安が大きくなるかもしれない。

どちらを選んでも、何かしらの不安が残る。

結局のところ、A先輩が悩んでいるのは、単に定年を延長するかどうかではないのだろう。

お金と時間。安心と自由。その限られた選択肢の中で、自分の人生をどう使うか。

その答えを探しているのではないだろうか。

人生の最後まで、タイパとコスパを追い求めるのか?

学校を卒業し、社会人になった。

それから何十年もの間、せっせせっせと働いてきた。

そして、ようやく社会人を卒業できると思ったら、そこには新たな試験が待っていた。

しかも、学生時代の試験よりも難しい。

何しろ、正解がないのだ。

働き続けるのが正解なのか。

それとも、きっぱり辞めて自由な時間を楽しむのが正解なのか。

お金を優先するのか。

時間を優先するのか。

どちらを選んだとしても、あとから「あちらの選択のほうが良かったのではないか」と思うことがあるかもしれない。

まさに、人生は検討に検討を重ねる人生ゲームなのである。

だからこそ、A先輩は会社からの資料を読みあさっているのだろう。

少しでも自分にとって有利な条件を見つけたい。

納得して決断したい。

そして、できることなら、後悔したくない。

自分自身を納得させるための安心材料が欲しいのかもしれない。

あるいは、選んだ道が後になって思い描いていたものと違ったときに、「あのとき、これだけ考えたのだから」と、自分を守るためのお守りが欲しいだけなのかもしれない。

どちらにしても、その気持ちは分かるような気がする。

人は、選択肢があるからこそ悩む。

そして、選択肢があるうちは、少しでも良い選択をしようと考える。

タイパ、コスパ。

限られた時間やお金を、できるだけ効率よく使いたい。

それは、若い世代だけの話ではない。

人生の終盤に差しかかっても、私たちは相対的な比較を繰り返し、どちらが得なのか、どちらが損なのかを考えてしまう。

けれど、人生の価値は、本当にそれだけで測れるのだろうか。

給料が多いほうが得なのか。

自由な時間が多いほうが得なのか。

働き続けることで得られる安心と、仕事を辞めることで得られる自由。

それらを、単純に数字だけで比較することはできない。

そして、この問題は決して他人事ではない。

私自身にとっては、まだ20年以上先の話だ。

今からあれこれ考えすぎても、あまり意味はないのかもしれない。

20数年後には、社会の仕組みも、年金制度も、働き方も、今とは大きく変わっている可能性がある。

そもそも、その頃には、定年という概念自体が今とは違うものになっているかもしれない。

今、どれだけ必死に考え抜いたとしても、その決断をすぐに実行できるわけではない。

そう考えると、今の自分にできることは、まだ見ぬ未来を心配し続けることではないのだろう。

ただし、何も考えなくていいということでもない。

今のうちから少しずつお金を蓄えておくこと。

会社だけに依存しない働き方や生き方を考えておくこと。

そして、仕事以外にも、自分が楽しめるものを見つけておくこと。

そうした積み重ねが、いつか自分の選択肢を増やしてくれるのかもしれない。

大切なのは、20数年後の未来を完璧に予測することではない。

そのときに、自分で選べる余地を少しでも残しておくことなのだと思う。

A先輩は、今まさに人生の大きな選択に向き合っている。

その姿を見て、私は考える。

定年延長は、良いことなのか。それとも、悪いことなのか。

きっと、その答えは人それぞれだ。

お金が必要な人にとっては、働ける期間が延びることは安心につながるだろう。

仕事に区切りをつけたい人にとっては、望んでいなかった3年間かもしれない。

そして、どちらの気持ちも、間違いではない。

人生は一度きり。

だからこそ、他人にとっての正解が、自分にとっての正解とは限らない。

定年延長という制度を前にして、私たちが本当に考えるべきなのは、何歳まで働くかということだけではないのかもしれない。

自分は、残された時間をどう使いたいのか。

そして、そのために、今から何ができるのか。

20数年後、私自身が定年を迎えるとき。

そのときの私は、どんな選択をするのだろう。

その答えは、まだ分からない。

ただ一つ言えるのは、人生の最後まで、損得勘定だけで悩み続けるのは、少しもったいないということだ。

せっかくの一度きりの人生なのだから。

いつか訪れる社会人の卒業試験。

そのときには、少しくらいタイパやコスパを忘れて、自分の心に素直な答えを出せたらいいなと思う。

……とはいえ、そのときになったら、私もA先輩と同じように、会社の資料を読みあさっているのかもしれないけれど。😂